57. 生地の表情を全く変えてしまう整理加工
2022年01月28日
今回は生地の仕事に携わるようになって一番驚いたと言っても過言でもない整理加工についてお話ししたいと思います。整理加工をざっくりいうと生地を洗ったり、柔らかくしたり、起毛したりと沢山の整理の方法があります。この整理が生地の見た目、肌触り、ハリ感等を大きく決める大事な工程になります。この整理加工を知らずして、生地は語れないくらい重要な工程になります。
上記の写真は整理をする前の生地になります。生地が織りあがった状態になります。(これを生機と言います)今回の生地は整理後の変化がわかりやすい生地をチョイスしました。下が透けて糸の一本一本が見えるくらい甘く織られた生地になります。スーツ生地ですと、生機の状態でもここまで透けることはありません。
この生機の生地を下の写真の機械で洗いに洗いこみます。時間にして約1時間以上お湯で洗いこみます。
ウールは洗濯をしてはいけないと思われていますが、この整理加工では生地を洗いに洗います。そこで縮んだり、コシが落ちることで風合いを作っていきます。ウールを洗うのに一番ためらう原因が縮むことだと思います。しかし生地の状態でしっかり洗い込んでおけば、縮む率は少なくなります。
しかし洗うことによって毛羽や毛玉ができやすくなるのも事実です。これはウールの風合いとして受け入れています。スーツのようにキレイな洋服にはこの加工は全く適していないです。スーツ地はスーツ地で全く違う整理加工が存在します。
上2枚の写真が、整理後の生地になります。整理前と比べて目が詰まったので透け感はなく、凸凹の生地の表情になっているのがわかります。改めて下の写真は整理前になります。整理で生地の表情が全く違うものになるのです。
凄くないですか?
僕自身最初は織り工場で働き始めたので、いつも整理前の生地ばかり見ておりました。それから企画の仕事に携わるようになり、この整理後の生地を見た時感動したことを今でも覚えています。悪く言えばスーツ生地は整理しても見た目でここまで大きく変わることはありません。カジュアル生地だからこそなせる技なのです。この生地を見た時、いろんな生地で洋服が作れると世界が広がった気分になりました。
この生地の一番の長所は膨らみが凄くあるという所だと思います。膨らみがあることで、空気を多く含み軽くて暖かい洋服になります。着用して頂くと薄い割りには暖かいと間違いなく感じると思います。
以前紹介させて頂いたブログで同じ整理・企画の生地をストールにしたものですが、軽くて暖かくこの冬めちゃくちゃ重宝しています。個人的にはカシミア100%のストールよりも全然良いです。カシミアのストールよりも、とにかく膨らみがあるので巻いた時にもボリュームが出て暖かく、顔も小さく見せてくれます。
この生地は整理だけではなく、生地密度も凄く工夫がされています。密度を甘く織ることと梳毛を使うことにより、整理時にガツンと縮んでいき写真のような風合いになるのです。この密度が混んでいたり、紡毛を使っていたらこのように大きく縮むことはないです。整理以外の糸使いや、密度の設定が重なりあってこの風合いができています。本当に生地の世界は海底よりも奥深いと感じる時が多々あります。
N tailor design では尾州産地で糸から企画しオリジナルで生地を作製作しております。生地を選ぶのではなく素材から考えて洋服を作ることによって、愛着が出てより長く着用できる洋服をお仕立てしたいと考えております。オーダーといえばスーツというイメージがあるかもしれませんが、尾州産地の生地を使ったカジュアルのオーダーもやっております。通常のオーダーの店にはない表情をした生地もありますので、是非糸から生地、生地から服に変わる素晴らしさを体感して頂けましたら幸いです!!